インタビュー #1

アルプス山岳郷

~観光地域のコンシェルジュとして地域と共に歩んでいく~


「アルプス山岳郷とは?」「誰のために、何をしているの?」そんな疑問にお答えするために、この地域に移住して5年目の楓が(一社)松本市アルプス山岳郷の齋藤元紀さん、宮下了一さん、セツ・マカリスターさんにお話を伺ってきました。



▲今回お話をうかがった皆さん。中央が代表理事の齋藤元紀さん、右が常務理事兼事務局長の宮下了一さん、左が地域づくり推進事業部長のセツ・マカリスターさん


アルプス山岳郷とは?

楓「この地域に住み始めて、『アルプス山岳郷』という名前をよく聞くのですが、実際のところ、よくわかっていません。アルプス山岳郷とは何なのか、教えていただけますか?」

元紀さん「2005年に松本市に合併される前の旧安曇村時代、槍穂高・上高地・乗鞍高原・白骨温泉・さわんど温泉を含めたエリアは、ひとつにまとまっていました。村のイニシアティブの元、アルプス観光協会という組織が主体となり、観光関連プロモーションなどについて、エリア内の各地域と連携しながらうまく機動していました。」

了一さん「それが、松本市との合併を機に、エリアを統括していたアルプス観光協会が形だけの組織になっていき、各地域がバラバラに動かざるを得なくなってしまった。一方で、上高地や白骨温泉、乗鞍高原なども観光客が右肩下がりに減っていました。そんな状況のなか、このエリアを何とか元気にしたい、そのためにはどうしたらいいかと各地域の組合の長が集まり、元紀さんの声掛けで話し合いを始めたのが2013年。アルプス山岳郷がはじまるきっかけになりました。」

元紀さん「その後、何回も話し合いの機会を設け、各地域をつなぐ交通手段が必要だという意見がまとまりました。そして、2014年に国からの補助金でエリアを横断できる周遊バス『アルプスパス』の実現にこぎつけました。」



了一さん「その後、協会内に設置した将来構想検討委員会から、この地域にエリア名称が必要だという認識になりました。それを受け、小中学生を含めたアンケート結果から候補を絞って、再度アンケート行い、旧安曇村時代の槍穂高・上高地・沢渡・乗鞍高原・白骨温泉に、奈川を加えたエリアの総称を『アルプス山岳郷』に決めました。」

楓「アルプス山岳郷は、組織の名称でもあり、エリア名称でもあるのですね。」

元紀さん「そうです。その後、この地域がどうなっていきたいか、検討を重ねていくうちに、国の方で地域DMO(※)を提唱するようになりました。地域DMOについて知れば知るほど、私たちの考えや方向性と親和性があることに気づき、その流れに乗っていくことにしました。しかし、地域DMOを推進するためには、法人格を取る必要性がありました。そこで法人格を取り、(一社)松本市アルプス山岳郷が生まれたのです。」


※地域DMO(=観光地域づくり法人)…地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人です。(国土交通省HPより)


アルプス山岳郷が目指していること

楓「なるほど。そういった経緯があったのですね。アルプス山岳郷という組織が生まれ、地域を元気にするための事業活動を行っているということですが、地域の進んでいく方向性については、皆さんのなかではどんな考えをもっておられるのでしょうか?」

了一さん「この地域に関して、住民の皆さんの声を聞くと、年代によっても全く異なる意見があります。例えば、とにかく以前のようにたくさんのお客様に戻ってきてほしい50代と、自分たちが暮らしを楽しみたい20~30代といったように。この、住民ひとりひとりの見かたの違いを認識した上で、どうコーディネートして、豊かな地域にしていくか、それを模索して提案していくことが大事だと思っています。」


▲2019年に乗鞍高原で行われた住民意見交換会の様子。乗鞍地区で地域の未来に関する住民アンケートを行い、その結果をもとに数回にわたり住民意見交換会を行った。


▲意見交換会を経て、今後の地域の方針や行動原則、具体的なアクションプランを提案。奈川地区でも地域づくりに関するアンケート結果を地域の方針やアクションプランに落とし込む提案をした。


元紀さん「地域の方向性を考えるときに、やはり自分たちの生活を見直していく必要があるなと感じました。自分たちの生活を見つめ直し、その潜在的な価値を掘り起こしながら、地域づくりをしようという流れになって、今があります。ここに住んでいる人たちが、地域の豊かさを日々感じながら暮らし、その一人一人の暮らしが地域の価値になり、結果として『訪れてみたい』という地域になるのが理想だと思っています。」


観光地域としての新たな提言
アルプスの感動を日々の暮らしに

セツさん「昔は、観光というと『コンテンツ(施設、自然、体験アクティビティなど)』があればお客様が来る時代がありました。でも、今はそれだけではなくなってきている。旅に出かけて何が見られるか、その背景にはどんなことがあって、実際にそこで何が体験できるか、その先に何があるのかという、旅先の文化を様々な面から味わいに来られるように、お客様の考え方が変わってきていると思います。」

元紀さん「だからこそ、この山岳地域で暮らしている人、ひとりひとりの暮らしを見つめなおし、暮らしの知恵や文化を磨き上げ、伝えていく必要があると考えています。

アルプス山岳郷で掲げているテーマは、『アルプスの感動を日々の暮らしに』です。

山との暮らしや、山での経験のなかで培われる文化・知恵・感動を、皆さんの日々の暮らしへとつなげていくことを意味しています。」


▲山の恵みと共に暮らしがあるアルプス山岳郷。例えば山菜は季節の変化を心身に知らせてくれる山暮らしに欠かせない大切な存在。(写真 Seth McAllister)


楓「どんな人に伝えたい、つなげたいと思っているのでしょうか?」

セツさん「届けたい相手を絞ることが重要になる場合もありますが、私たちの届けたい相手は多様性に富んでいます。今、このエリアに住んでいる人はもちろん、国内外を問わず、ここを訪れたことのある人、このエリアが好きな人、アルプスの山の文化に興味のある人、そしてこれからもっと山とつながりたい人。様々な立場にある人が、このアルプス山岳郷エリアでの暮らしの価値観を共有しながら、一緒にこの地域の未来をつくっていけたらと考えています。」


観光地域のコンシェルジュとしてのアルプス山岳郷

楓「なるほど。今までは、消費者として位置づけられていたお客様も、ある意味一緒に地域をつくっていく、地域の担い手になるという考え方なのですね。」

セツさん「そうですね。その考え方のなかで、アルプス山岳郷は、このエリアのコンシェルジュ(案内役)的な役割を担いたいと思っています。」


▲昨年の杣人(そまびと)体験モニターツアーの様子。アルプス山岳郷では、山暮らしの文化を伝える体験ツアーも企画している。(写真 Seth McAllister)


了一さん「ここに住む人に向けては、この山の暮らしをどう楽しみ、どうしていきたいか未来像を描き、その未来像へ向かって具体的に実行していくお手伝いをすること。それから、ここを訪れる方に向けては、自然・アクティビティ・固有の文化・各地域を横断した、魅力的で多様なコンテンツをつくり、提供すること。そして、ここに住む人とここへ訪れる人、その両者が互いに価値観を共有し、交流しながら進んでいくお手伝いをしていくこと。そういったことを進めていくコンシェルジュです。」

楓「アルプスのコンシェルジュ。面白い考え方ですね。今、具体的にどんな動きがあるのでしょうか。」

セツさん「アルプス山岳郷の公式HP内で、このエリア内の魅力ある体験を一つ一つのコンテンツとして紹介しています。こうしたコンテンツをより充実させ、予約システムを確立して、アルプス山岳郷エリア内の魅力ある体験コンテンツをスムーズに提供できるような仕組みを作っています。」

元紀さん「地域を横断した体験を提供することは、地域単体ではできない取り組みですし、このエリア内で多様な体験ができるという、単独の地域では生み出せない価値をお客様に提供できます。それは、各地域にとって、相乗効果のあること。今後は、ここでの体験を通して、お客様がこのアルプス山岳郷を応援でき、それを地域が受け取れるような、相互に交流できる機会を作りたいですね。そして、ここで暮らす人と、ここに住んでいなくてもこのエリアを本当に好きな人とが、気軽に地域づくり・環境づくりに共に参加できる新たな仕組みをつくっていきたいと思っています。」



▲アルプス山岳郷エリアのひとつの地域、乗鞍高原に広がる集落のようす。雄大な乗鞍岳のすぐ麓に、山の恵みを享受しながら人々の暮らしが息づく。(写真 Seth McAllister)


了一さん「また、アルプス山岳郷としては、今ここで暮らす人、ひとりひとりが価値ある尊い存在で、山の暮らしを営んでいるそのことが私たちのブランドだと考えています。このエリアで暮らし、活動している"人"に焦点をあて、伝えていくことも、地域の魅力を伝える私たちの大事な仕事だと考えています。」

楓「ありがとうございます。このエリアが、アルプス山岳郷に住む人、訪れる人と共に、今ある関係を深めたり、新たな関わり方を見つけて、共に幸せを感じながら進んでいくことができたら素敵ですね。最後にひとこと、何かありますか?」

元紀さん「これから、アルプス山岳郷と共に、価値観を共有しながら動いてくれる方が、地域の内外で増えていったらいいなと思います。多くの方に、気軽に参加して頂きながら、魅力ある地域を一緒につくっていけたらと思っています。よろしくお願いいたします。」



【編集後記】

私は、アルプス山岳郷エリアの環境に魅せられて、この地域に移住してきた新参者です。私自身、ここの自然やこの自然と共に暮らす人に深く関われば関わるほど、どんどんこの地域が好きになっています。それを察知していただいた(?)アルプス山岳郷の方からお声がかかり、これから、このアルプス山岳郷エリアの「人」の魅力に迫っていくインタビューを数回シリーズでお届けすることになりました。アルプス山岳郷エリアの自然、農業、仕事、遊び、教育など、この地域に暮らす「人」の様々な側面のお話をうかがって、わくわくしながら皆さんにお伝えできればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。



インタビュアー :楓 紋子(もみじ あやこ)

2016年に乗鞍高原へ移住し、季節の巡りに応じて見られる自然の姿や、自然と共にある山暮らしの魅力を日々感じながら、仕事・遊び・暮らしを楽しむ生活をしている。

北アルプスの山々や乗鞍高原内をあちこち歩いて大自然に触れることと、この地域の山の恵み(高原野菜・山菜・蕎麦・おいしい水)を使ったおいしい料理を食べることが活力の源。

現在、フリーランスでデザイン・イラスト・ライター業を営んでおり、主にアルプス山岳郷エリアの事業者からの依頼を受け、デザイン(HP・パンフレット・ロゴマーク等)やライティング活動に携わっている。

魅力あふれるこのエリアで、地域の方々の話を伺い、その方々のこれまでの歩みを振り返りつつ、これからの未来像を一緒に描いたり、その過程で何かしらの「形(グラフィックや言葉)」をつくり、このエリアの魅力が内にも外にも響いていくきっかけになれたらと、一歩一歩活動中。

一児の母。

※アルプス山岳郷では、実務面で、事務方のサポートをしてくれる有給スタッフも募集しています。詳しくはアルプス山岳郷事務所までお問い合わせください。

アルプス山岳郷

槍穂高・上高地・乗鞍高原・白骨温泉・さわんど温泉・奈川

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